昨日の営業中
スタッフが常連様のオーダーを頂いた後
「店長、ポン酢下さいとおっしゃってます」というので
ポン酢を作ろうとしたら、キッチンのスタッフから
「特選ロースのカット…自信がないのでお願いします」と言われた。


キッチンに入って特選ロースをカットして、ポン酢を作った。
僕の横ではスタッフがいつものように特選ロースにタレを絡めていた。


ポン酢をカウンターに出したら、オーダーを聞いてきたスタッフが
「特選ロースと一緒にお持ちするので置いておいてください」と言う…

「?」
もしかして、そういうこと?
特選ロースをポン酢で食べるなら、タレをからめちゃいけないんじゃない?
僕はすかさず「タレつけていいの?」と聞いた。


彼もすかさず「多分大丈夫だと思います」と答えてくれた・・・


その「多分」という言葉の根拠は彼にも僕にもどこにもなかった。
そこにあったのは・・・

条件反射的に出た「多分」と言うとても曖昧で、それゆえに人の心を瞬時に麻痺させる
ある種の甘美ささえ感じさせる音の響きだけだった。


にもかかわらず、僕は言った
「そっか・・・」


そのスタッフの意見を尊重しているようでいて、まったく中身のない返事。
言葉の上っ面だけをなぞって、自分と相手をぬるま湯の中に引き込む
これまた悪魔的な相槌・・・
「そっか」


結果は明白だった、怒るお客様、うなだれるスタッフ。


そのスタッフはとても落ち込んでいた、いつも声をかけてくれる
大好きな常連様の期待を見事に裏切ってしまったのだから・・・




狎れ合いが生んだ悲劇。


一番の問題は、一瞬の判断を躊躇したリーダーの能力だ。


同い年のそのスタッフと僕は、本当にいい勉強をさせてもらった。


帰り際に、僕たちが落ち込んでないか気を使って優しい言葉をかけてくれる常連様…

熱くなった目頭に、二人の成長を誓った。